題詠2009

『題詠blog2009』001〜100(石畑由紀子)

001:笑 目覚めると輪郭だけが残っていた はまって遊んだあとで、笑った 002:一日 ソファの上に速度の違う一日あり胸とくとく打つ猫と私と 003:助 いまはもう見えなくなった補助輪のかろかろ我の胸に鳴り在る 004:ひだまり 物陰は数時間後にひだまりとな…

100:好(石畑由紀子)

欠けていて月うつくしい 間違ったままで私はあなたが好きだ

099:戻(石畑由紀子)

夜明けごと少女に戻る祖母の手を握るとりどりの名で呼ばれながら

098:電気(石畑由紀子)

(しんしんと電気のふりつもるセーター)(蜜柑剥く指とめてあなたは、)

097:断(石畑由紀子)

指にまだけもののにおい ふたりそっとつなぎ横断歩道をわたる

鑑賞「025:氷」

1〜235首からのピックアップです。氷、といえば私のなかではエロスなんですが、そういうのはほとんどありませんでした。。といっても氷攻めとか口にふくんでどうとかそういう直接的なやつじゃないですよ!(笑)それは氷のようなエロスじゃなくて氷を使った…

096:マイナス(石畑由紀子)

悩んではいない迷ってもいない振り切ってるだけだマイナス/プラス

095:卓(石畑由紀子)

私だけを、という歪んだ夢をみて卓上の檸檬が暴発した

094:彼方(石畑由紀子)

飛べるんじゃなくて飛ぶしかないんだとつばさは言った ツバメ彼方へ

092:夕焼け(石畑由紀子)

ブランコの伸びゆく影に気づかれて わたし夕焼けになるしかなくて

093:鼻(石畑由紀子)

"You've got a strange slope...," 眉間から鼻先、跳んでくちびるに止まったデヴィッドの、指

090:長(石畑由紀子)

長針よりすこしだけ鼓動の遅いおとこの人ときのう眠った

091:冬(石畑由紀子)

オリオンの肩から冬の大三角 ほんとうはいつも答えを、知ってた、

089:テスト(石畑由紀子)

教室の窓からすらり離陸したテスト用紙が彼女の答え

088:編(石畑由紀子)

死者はみな川に編集され今はまあるい角しか思いだせない

087:気分(石畑由紀子)

水槽になった気分だパクパクの金魚が指にばれてしまって

086:符(石畑由紀子)

ふっふーん 正解のない毎日に寄り添うように音符は歌う

085:クリスマス(石畑由紀子)

クリスマスのやさしい嘘で生き延びたこどものような恋をしている

084:河(石畑由紀子)

横たわる河をいつもひとり渡ったこの身も河のひと粒として

083:憂鬱(石畑由紀子)

中島の野球の誘い待ちながら日曜夜の憂鬱を飼う

081:早(石畑由紀子)

早口になるからわかる 今回は許すかどうかまぶたで迷う

082:源(石畑由紀子)

電源を切ったつめたい指先が私の花をふるわせて、夜

080:午後(石畑由紀子)

午後ティーの甘くなりゆく恋だから永遠みたいに笑ってみせて

078:アンコール(石畑由紀子)

泰造の夢駆けめぐる落日のアンコールワットはしずかに燃えて ※一ノ瀬泰造……1947年生まれ、報道カメラマン。カンボジア内戦下の1973年にアンコールワットの撮影を試み、当時の極左武装勢力クメール・ルージュに拘束され、処刑された。享年26歳。

079:恥(石畑由紀子)

太宰ほど誇れる恥のない午後の舌先でころがすユスラウメ

076:住(石畑由紀子)

君の住む街の天気を先にみる癖がつきました お元気ですか

077:屑(石畑由紀子)

ブリリアントカットの終えた卓上の石屑かき集められてまたたく

075:おまけ(石畑由紀子)

おまけしてもらった林檎齧りながら昨日の愛撫の場所をかぞえる

074:肩(石畑由紀子)

顔のない男がわらう 肩ごしの陽に射貫かれて退路は消えて

073:マスク(石畑由紀子)

やさしみの湿度でマスクはけむりゆきヴィルスと呼ばれるものと眠った