鑑賞『009:寒』

TB1〜139のなかからのピックアップです。今回は好きなものがたくさんありました。寒さ、すこしずつやわらいできましたね。うれしくて、すこしさみしい。あの寒さこそが、私の。いのちのふるさと。


■ 寒空をうすく切りとる促音のきみの「きっと」に照らされている
   (紗都子)
促音の切っ先。促音の、ひかり。うすく切りとるのが寒空であることから、その先があたたかな芽吹きの季節であることを予感させます。「きっと」って言葉。祈りと、意志だよね。お歌のひびきもきれい。


■ 名前のない季節のかけらあたたかいてのひらで君は寒さを閉じる
   (藤田美香)
冬と春の混ざりあうところ。季節に正時ってないですよね。あいまいな境目、「君」のあたたかいてのひらにも、名前はなくて。名づけないという、主体と君との関係性をふくませながら、いまこの時をたいせつに想っている主体の眼差しを感じます。


■ はかなしないのちをむすぶむつのはな寒さを重ねて椿は白し
   (周凍)
「むつのはな」、雪の別称だそうです。「むつのはな」と椿の花をイメージで重ねつつ、ますます椿は白になるという意識がすてき。端正な文語でなぞるうつくしい景色。


■くすぐられ続けた自負に流れ込む寒流だったと思う親潮
   (久哲)
なにがあったのでしょう。具体的なことがらは書かれていませんが、鋭い指摘・忠告といった類のものに間違いないようです。親でしょうか、「親潮」とあるし。いま静かに、思い返しているんですね。