鑑賞「098:腕」

TB1〜161のなかからのピックアップです。


■ 腕時計外して経の横に置き僧おもむろに読経を始む
   (西中眞二郎)
意識の、おもしろい一瞬が切りとられています。僧侶って職業というよりはひねもす三六五日、僧侶であることを期待されるイメージを私は持っているんですけど、市井の人間からするとそこに腕時計はちょっと違う気がするんです。俗というか、欲というかね。お坊さん自身にとってもそうなのかもしれない。だからこのお歌の僧侶も、お経を前に脱着によって切り替えたんでしょうか。説教を終えたら自前のアウディで颯爽と帰っていくような、そんな風景が見えるようです。


■ 抱き枕を腕枕して寝てました 布団から出るまでが夢です
   (古屋賢一)
上句いいなあ。響きもいいし状景もいいですね。くすってなるんだけど、それだけじゃない感じ。全体ひらたいことばで編まれながら下句はちょっと意味深でもあって。けどこのお歌は、頭尾きっちり意味を追って鑑賞しようとするのはたぶん野暮なんだろうな。上句のおかしみ、下句の現実/夢との距離感、そのゆるく小指をむすぶような繋がりをふんわり味わうのがいいのかもしれません。