鑑賞「079:第」

「078:指紋」(TB1〜168)は鑑賞のみで失礼して、今日は「079:第」から始めます。TB1〜169のなかからのピックアップです。


■ 生まれたら落下していた夜だった 第三惑星雨降りしきる
   (まといなみ)
そうですね、生まれる前は、とおくくらく広々とした宇宙空間で浮遊するかのよう。胎児は、落下という概念とは無縁なんですよね。転じて、それは主体がなにかを知る前であったり、自覚する前であったり、するのかもしれません。知ってしまえば、意識してしまえば、抗えない外部からの作用によってどうしようもなく水底に沈むしかないのです。ひとの意識が、ひろく宇宙になぞらえて詠まれたお歌。いいですね。


■ 親は子の殺しの腕をたしかめて及第とするけだものたちは
   (秋月あまね)
うん。生きていくこととは命を殺すことにほかならない。多くの人間は、この手で殺せてはじめて一人前、という生活からとおく離れてしまった。けだもの、というフレーズで想起する一首があります、「ふくらはぎオイルで濡らすけだものとけものとの差を確かめるため(野口あや子)」。けだものとけもの。どちらのいのちが美しいのか、私にはまだ、わからない。わからないまま、憧憬。