鑑賞「074:あとがき」

072:コップ(TB1〜172まで)と 073:弁(TB1〜174まで)は鑑賞のみで失礼して、今回は「074:あとがき」です。TB1〜172のなかからのピックアップ、大漁です! 後書き、という意味のほかに「〜のあとが/きれい〜、きみの〜」といった変則的な詠み込みかたを幾つか見かけました。おお。


■ 生きてきたあとがきえさる事実には(蝉のあおむけ)抗えなくて
   (虫武一俊)
バーレン(カッコ)が効いてます。場所も計算されてる感じ。地上での命がみじかい蝉にくらべてヒトには膨大な時間があるようですが、相応の長いスパンで捉えたとき、やはり私たち一個人の軌跡もあとかたなく消えていく運命なのかもしれません。いまここに、亡骸という実体だけが存在を放っています。


■ 「母親のあとがきどもも……」 うっとりと月の輝く砕石場跡
   (飯田和馬)
月の勝利です。月のうつくしさ、月の狂気。このお題からこのような状景を描き出した飯田さんの脚力に脱帽です。しかもこの惨状にして、お歌の腰に「うっとりと」を挿しいれてるところも。このギャップがあってなおのこと事実がつめたく突き放されています。月はだから、手の届かない場所。私たちとは、別の場所。


ほのほかには、

■ あとがきの謝辞に連なる名の中にあなたと一字違いの学者 (五十嵐きよみ)

■ あとがきを書くため書いた小説もあっただろうと触れる耳たぶ (ウクレレ

■ あいされたあとがきえないあさでしたきせつはずれのあきものをだす (田中彼方)

のお歌に惹かれました。五十嵐さん、この意識の飛ばしかた。そして、嗚呼! ウクレレさん、順番など、到達点など、どうだっていい。いまここに走らせる筆が、指があるということ。田中さん、「あ」のひびきがきれい。aは、余韻の音。私だけが最中にとどまっていた。けどそれももう、おしまい。うん、三首ともいいですね。