鑑賞「061:奴」

TB1〜124のなかからのピックアップです。


■ まつしろな奴(やつこ)に箸をさしいれて機銃掃射のまぼろしを聴く
   (穂ノ木芽央)
とうふが人肌に見立てられたとき、連想される展開はたいてい情事なんですけど、このお歌は銃弾が人をつらぬく殺戮シーンです。音も抵抗感もなくスッと差しいった箸先が、そのままつめたい弾丸で。お題である「奴」の字にふたつの意味を持たせて、とうふの質感を残したまま上の句と下の句の舞台の質感だけをガラリと変えています。主体は、きっとおとなで、人を心的に傷つけたことのあるひと。それを自覚しているひと、そんな気がします。冷や奴って、それだけ酸いも甘いも知っているおとなの象徴っていうイメージ。結句の「まぼろしを聴く」の言いまわしがややスウィートかな、とも感じたんですが、各単語の出だしが「-a」と「-i」できれいにまとめられているので、音重視でむしろこれがいいですね。