鑑賞「056:枯」

TB1〜122のなかからのピックアップです。ところでお題がひとつ飛んでます、「055:アメリカ」はTB1〜124まで鑑賞させていただきましたが、ピックアップなしなのでした。多謝。


■ 枯草掻く猪肉あかくゆれてをり歳晩の土鍋の身籠もりならむ
   (行方祐美)
荒いけものの息、猪のヒヅメ、枯れ草のほこりが煙り、ぐつぐつと煮えたぎる鍋、ゆらめく赤肉。大地から土鍋までの一直線の道がみえます。そのように躍動していた命を、私という命が食べているということ。生きることは殺すことであり、また産み生まれることでもある、そんな命のサイクルを思わせるような、「土鍋の身籠もりならむ」(土鍋が身籠っているかのよう)というメタファがすばらしいです。


そのほかには、

■ E・Tのごとく蓮の実そら見上ぐこんなに枯れてもまだ畢(をは)らない (梅田啓子)

■ 木枯らしを栞代はりに讀む本で今二人目が死んだところだ (酒井景二朗)

■ マフラーに息がこもる日くもり空白むメガネを笑う木枯らし (おっ)

が印象に残りました。梅田さん、下の句がしみじみと好きです。そしてあれは確かにE・Tの指。酒井さん、推理小説でしょうか、「木枯らしを栞代はり」にするロマンティシズムと死人のギャップ、いいですね。おっさん(と言い切っていいのかしら。。笑)、なんてことない風景がなんてことない言葉で編まれてるんですけど、声にだして読んだとき、音の連鎖がすんっごく心地よかったんです。なんだろうこれは。「こもる」「くもり」「しらむ」「わらう」「こがらし」。これけっこう計算されてるんだとおもいます、そして結句がさりげなくメルヘン。わびしいだけじゃない木枯らし、いいなあ。