鑑賞「053:ぽかん」

TB1〜123のなかからのピックアップです。
えと、実話です、とか、書かなくてよいんじゃないかなあーと思うのです。シチュエーションやエピソードが実話であることが尊いのはドキュメンタリーの世界で、文芸にはあまり関係のないものと考えています。そこは実話/虚構どちらでもいいんじゃないかな、込めたものが自分にとってほんものでありさえすれば。意図的に作り上げたシチュエーションにどんな想いを託すのか、どんなふうに、だいじに詩的現実を描くのか、私はだんぜんそっちのほうが気になるし、そういうところがびしびし意識されている歌を読みたいなーっておもいます。
それでは、二つのぽかんをシンプルに紹介します。


■ みちばたですかんぽかんでまつてゐる春のいつぱい詰まつたバスを
   (酒井景二朗)
嗚呼、ひだまり。「ぽかん」の前にさらに「すかん」が付くくらいの、からっぽに満ちたぽかぽかなひだまり。バスのなかの春は、さよならと再生の暗示でしょうか。あったかいだけじゃない、けどさみしいだけじゃない、やさしい歌。


■ みずうみにぽかんと浮かぶコウホネの黄色あなたはえらばれた色
   (斉藤そよ)
コウホネ。私知らなくて、調べてみました。植物なんですね。スイレン科、おおぶりな葉の合間からのぞく、華奢であざやかな黄色の花。「あなたはえらばれた色」という表現から、湖の風景を越え、主体の日々の視野にうつりこむ黄色い花のような存在を連想させるようでもあります。「黄色/あなたは」の句またがり、いいですね。