鑑賞「026:丸」

さくさくいきます。今日ふたつめのお題鑑賞、TB1〜138のなかからのピックアップです。良いよ良いよ。


■ 半透明に透けるブラウスはつなつの鼓動をきみは丸くおしだす
   (ふみまろ)
丸くおしだす! これとても好きです。「押し出す」じゃなく「おしだす」なのも、お題の「丸」と胸のラインをきちんと踏んでいてピッタリ。たぶんこの女性自身もおだやかな佇まいなんじゃないでしょうか。カットソーやチュニックではなく、夏にブラウスを着るようなタイプの女性。まだ始まっていない、始めるために積極的に動こうとはしていないけれど実際は始まってもおかしくはない、主体の視点と女性のありさま、距離、季節性から、そんな関係性が浮かび上がってきます。やわらかでありながら隙のない一首。


■ 深爪の丸い指先だけが知る深海の熱わたしの魚
   (ましを)
やわらかなエロス。主体は許しているんですね、その指の主に、自分の深海を。そこでちいさく跳ね泳ぐ魚を。先日、短歌の知人と男性の爪について話したばかりなんですけど、他者の奥深くに踏みこむための指先は、先端でありながら傷つけぬようやさしい爪先でなければならない。逆に言えば、それ以上踏みこまぬ理由とするために爪を切らないでいることも、男性の意思表示としてあるわけです。丸くやわらかでありながら同時に異性の肉体の深くへ、そして精神的な奥地へと、届く先端。その指先を、ふとした日常のなかで目をやる主体。こごえるようにやわらかな恋の歌です。