鑑賞「021:狐」

どんどんいきます、TB1〜164のなかからのピックアップです。狐のつく熟語はどれも魅力的ですねー、歌の世界に合っている気がします。孤独の「孤」で詠み誤っているものが幾つかあって、もったいなかったな。


■ 狐火をゆする指先氷砂糖みたいにねぶったあおくあおくあおく
   (ましを)
狐火という、現象としてありつつなお不確かなもの。そういうものに触れるとき、あまく溺れるひとつの感情がある。自分のあおさをわかっていてなお、ずるくなってしまえない。まやかしを見せて/魅せてくれる指先に向かう性急さがとても好きです。「ねぶる」が効いてますね。氷砂糖の燃えゆくように濃厚なエロチシズム。


■ 暮れ方を過ぎて光りぬ狐窓あすの津波は高いといふが
   (行方祐美)
幻想的。建築様式のなかにも狐がいるんですよね。明日、外部からの大きな影響を受ける予感があるのでしょうか、獣の部分で感じとっているさまが「狐窓」という建築物のパーツによって描かれています。ここで印象に残ったのは音韻です。全体的にカ行タ行の破裂をともなう音が多く、これってほかの音にくらべて刺激的なんですよね。たとえば一句目、同じ意味でも「夕暮れ(子音・YGR)」と「暮れ方(同・KRKT)」では音から想起するものがまったく違ってくる。ベクトルで言えば「夕暮れ」は過去へ向かう音、「暮れ方」は未来へ向かう音。神経を逆撫でるようなヒリヒリした破裂音から、「あすの津波」を強く意識しているさまがにじみ出ているようにおもいます。