鑑賞「020:まぐれ」

TB1〜169のなかからのピックアップです。これはむずかしいね。ふだん歌に使わない、という以前に使おうとおもわないタイプの語句だとおもうし、何か足すとしても気まぐれか夕まぐれくらいしか浮かばないですよね。分割しているかたもほとんど見かけませんでした。今回はぎゅっと一首のみ紹介します。


■ 赤き実を鳥が啄むゆふまぐれ〈ひとさらひ〉とふ言葉のよぎる
   (梅田啓子)
北原白秋の詩でしょうか、赤い鳥が赤いのは赤い実を食べたからよ、っていう童謡がありますね。「ひとさらひ」は実際のそれでしょうか、それとも心的なもの……恋ごころでしょうか。歌の時代性が呼び起こした記憶ならば前者、歌の内実が呼び起こしたものならば後者といえるかもしれません。鳥が実をぷっと啄んで持ち去るように突然子供がいなくなった時代のことを、もしくは自分がかつて対象の欲望のままに奪われ、対象に染まっていったころのことを、「ゆふまぐれ」という染まる時間帯に思いだす。どちらの喪失感にも、ぐっと引き込まれます。そしてやはり笹井宏之さんの歌集「ひとさらい」のことも、梅田さんの脳裏にはあったのかもしれないと、ふと感じました。