鑑賞「019:押」

ハロー、せかい、みんながすっかり待ちくたびれた頃に人知れず更新が始める当ブログです。笑 まったくもって気ままな狼煙です、水面下でこつこつと火起こしを続け、やっと点火しました。またしばらく怒濤の更新ラッシュになる予定です、しばしお付き合いくださいね。
ではTB1〜168のなかからのピックアップです。大漁ですよ!


■ 押印す 朱肉まみれの指吸えば澄みたる海の石油のごとし
   (菅野さやか)
自分のいのち、その営みとは無関係であるはずのものを外部から強制され、侵食されることへの強烈な違和感と生きにくさ。重いテーマです。朱肉に染まった指から油まみれの水鳥を想起したところは秀逸。「押印す」の一句目切れ、その空欄が、主体の抱える問題の重さとして読み手にいっそう迫ってきます。


■ PUSHでもPULLでもドアは押し開けるあの子と長く友達である
   (山口朔子)
扉という境界線をはさみ、それぞれのキャラクターがありありと見えてきますね。シチュエーションに関係なく押し開ける強引さ、なんたって常に相手の領域を侵してコミットを求めるわけで、相手はなにかと掻き乱される。傍から見たらまったくタイプが違うのになぜ? っていう二人、そんな凸な相方である主体の、凹なのだけど内実ゆたかな、人を受け入れる余白のあるさま、やれやれと言いながらどこか動じない感、「友達である」という語尾の言い回しにもそのへんの冷静さが垣間見られて隙のない一首です。いいですね。


そのほかにも今回はいっぱい好きだなーと思うものが。

■ 少年が全体重をかけて押すゴール地点のスタンプラリー(間宮彩音

■ 今しがたお待ちください押入れに全部隠して君に茶を出す (イズサイコ)

■ くちづけは烙印押すが如くにて汝(なれ)の背にある赫き火脹れ (冥亭)

■ うまれつき思い出づくりに長けている妹が棲む春の押入れ (斉藤そよ)

■ さくらばな言わない方がよかったとまた閉じておく さくら押しばな (秋月あまね)

■ 失せし町はバス停の名にだけ残りて降車ボタンを押して我もや (たざわよしなお)


間宮さん、達成感で渾身のちから。イズさん、わはは! 冥亭さん、それでも消えゆく祈り/呪いの。斉藤さん、痛み、やさしい暗がり。秋月さん、ときどき振り返ってしまう、春を。たざわさん、私もまたいずれいなくなる、名前だけを残して。

「押」という強引な語感でありながら繊細な世界観も多く、そのへんのテーマの選びかたも含めて好みでした。すてきな回でした。