鑑賞「011:青」

昨日にひきつづきステキ短歌のピックアップです。お題「011:青」はTB1〜184のなかから。


■ 計算し尽くされている窯変も時には許せ叛逆の青
   (秋月あまね)
以前陶芸をやっていたころの感覚が蘇りました。そうなのよね、同じ釉薬をかけて隣どうしに並べても、窯内部の火と風のまわりかた・灰の掛かりかたなど諸々のタイミングによってまったく違う反対色が現れたりするのです。というのも、陶芸の焼きには酸化焼成(酸素をとりこむ)・還元焼成一酸化炭素を発生させて釉薬の酸素を奪う)のふたつがあり、酸素の有無でひとつの釉薬にふた通りの色が見込まれる……というのが、陶芸の基礎知識。もちろん、それが味になることも多々あるんだけどね。
そんなわけで、慎重に扱い見守った存在が突如もくろみや期待とは真逆にかがやくさまが焼きものに喩えて描かれています。「叛逆の青」ってのが特にいいですね、衝動の美しさを表すにはやっぱり「青」だ。静物でありながら疾走感にあふれた一首です。


■ 全種類そろえるために「青が好き一番好き」と君に伝えた
   (伊藤夏人)
これもグッときた一首です。一見これ、歌中の色が青であることの必然性はよわい、ようにもみえる。けど注視すべきはこの残酷性。なにを全種類?とかもういいですよね、だってもう既にこんなに意味深なんです。要は全種類そろえたいがために「君に」真実みたいな嘘をつくんです、君に教えるものが一番だよって……他にも山ほど手中にしてるけど君が欲しいから君が一番好きだよって言うんですよ!ぎゃー!(すみません取り乱しました) このエゴと残酷さが青でなくてなんだろう。清涼感とか爽快感とはまったく違った、「太陽が眩しかったから人をころしました」ばりの狂いが「青」という一文字に込められているかのようです。え、私? 私なら、そんなあなたの腕のなかで、きっとあなたをころす。だってほら、空がこんなに青い。


その他にも、

■ 春浅く忍び寄る影なすがままピカソの青に立ち尽くすなり (コバライチ*キコ)

■ 青という青に遭わないまま生きてきた砂つぶに見せる静脈 (虫武一俊)

■ 翡翠を留めて撓むる枝下に燦めく青の無限音階  (読み:かわせみをとめてたわむるえだしたにさざめくあおのむげんおんかい)(羽根弥生)

などの歌に惹かれました。そうですね、青はやまい、青は遭遇、青は無限のにおい。領域のひろい色なのだ、青。