鑑賞「009:菜」

本日みっつめのお題鑑賞は「菜」、TB1〜183までのなかからピックアップしました。菜、淡くやさしく、そして、さみしい。そんなステキ短歌たちです。


■ あの人の教えてくれたひとつずつ染み入るように菜種梅雨降る
   (音波)
くるしいなぁ。くるしいなぁ、そして、愛おしい。恋、ひとと繋がりひとを想うということは、ときにつめたい雨を身に受けて凛々とふるえて立つことで。結句の漢字集中も効果的。とても好きです、ありがとう。詳細はコラムにてぜひ。

 ●『純響社WEB』コラム掲載作品。『アトリエの庭から』へどうぞ。→ http://junkyosha.com/


■ 曖昧な関係を維持するための八宝菜が食卓に並ぶ
   (新田瑛)
なんたって八つの宝ですからね、八宝菜。しかし「食卓」という響きをもってしても「曖昧な関係」と断言するあたり、道ならぬ恋とはまた違ったそれぞれの心境をうかがわせます。八宝菜だけがこの景色のなかでつやつやぴかぴかなかがやきを放ち、いっそうのコントラストに一役かっています。


■ 不意打ちの一人の夜に菜箸の先をなめなめ味わう煮付け
   (菅野さやか)
こんなに美味しいのにね。鍋の中身をあたためながら、ちょっといじけて菜箸のままお行儀悪くしたりして。出だしの「不意打ち」の衝撃がお題の入った腰の「菜箸」をとおってそのあとの「なめなめ」に繋がる、この緩急がいい感じです。


上記のほかに、非常に惜しかったものをひとつ。

■ なのはなのなです、と言えずいつまでも「やさいのさい」と繰り返すくち (太田ユリ)
わーーこれ好きなのに。お題の部分を漢字にし忘れましたか。自分を花に喩えることをためらい、「いつまでも」伝わらない同じワードを口にするしかなくて。「いつまでも」がいいなー、電話口双方の戸惑いがよくわかる。これすごく好きですよ。