鑑賞「005:乗」

TB1〜189までのなかから印象に残った歌をぎゅっとピックアップします。お題のとおり、乗ったり乗られたり、乗せられていたり、累乗されていたり。乗り物に関してはその中でさまざまなドラマがありました。そうだよね、いちばんちいさな密室だものね。


■ ひらかれたエゴン・シーレに右頬を乗せてまどろむ忌明けの母は
   (理阿弥)
ここでは、画集はエゴン・シーレでなくてはならなかった。エゴン・シーレがとにかく重要です。固有名詞を詩歌に編みこむことについては常に議論されてることとおもいますが、表現性を考えると、置き換えの効かない、このテーマで詠むならばどうしても不可欠だと理阿弥さんが判断したものじゃないでしょうか。かなり好きです。

※『純響社web』コラム掲載作品。『アトリエの庭から』へどうぞ。→ http://junkyosha.com/


■ 許すこと選んだひとを乗せてゆく湾岸線に虹のあしあと
   (ふみまろ)
虹のあしあと、がとても好きです。あと「許すことを選ぶ」っていう言葉も。選ぶ、をつけることでそれ以前の葛藤……曇天であり雨天であり……や決意性をより重く想起させるよう。湾岸線のゆるやかなカーヴの上空、淡く同化してゆく虹の後ろ姿が見えるようです。切なく、すてき。