鑑賞「008:南北」

つづいて今日ふたつめのお題「南北」です、TB1〜184までのなかからピックアップしたステキ短歌を。路線や通りの名前、方角、その関連で東西にも伸びていったり、歌がさまざまな意志を持ってのびやかに行き交ってました。このお題いいですね。


■ 私のこときらいなあの子に会いたくて生まれて初めての南北線
   (佐倉さき)
自分をきらいな子に会いにいく、という設定にドキッとしました。なんだろう、友だちかしら、初恋かしら。一見これ、南北線じゃなくてもいいじゃんってなりそうなんですけど、でもね、心の動きで昔からこういうのありませんか、南下・北上って。開かれてゆくこころは南を目指し、閉ざされてゆくこころは北を目指すとか言いますよね。主体はこの路線で南下したに違いない、なんて私は思っちゃうんです、妄想しすぎですかね。そういう視点からも、お題でもあるこの南北線の選択はこのシチュで生きていると感じました。好きだなぁ。


■ 南北の違ひくらゐの温度差を保ちつづけてまた春が来ぬ
   (行方祐美)
違いで離れるのではなく、それもまた受け入れて続いてゆくのですね。もしかしたら、もっと差を縮められたらそれはもちろん嬉しいことで、けどそうじゃなくても、自分とは違う温度を持つひとにそれもまたイエスとおもうこと。日本って、なにがいいかってこの地形だとおもうんです。縦に、南北に長ひょろいことで土地とこころのありさまがうまくリンクしてこのような歌が生まれる。さみしくて、あたたかな歌。


■ あと何度つよく揺れたら真っすぐに南北を指すわたしの地軸
   (ワンコ山田)
かなしみや痛みという衝撃に出会いさまざまを知ることで、つよくなりたいと祈るこころを最初は想いました。そして何度か口に出して詠んでみて、この「真っすぐに南北を指す」の状態にはもうひとつ想起させるものがあることに気づきました。地球の地軸は真っすぐではなく23.5度傾いていますが、この傾きがあったからこそ生命活動がここまで活発になったのだと云われています。傾いていることで、豊かな地球、その傾きをなくすということ……、この歌が、後者を指したかなしい意思ではありませんように、と、祈らずにはいられなかったのでした。


上記のほか、

■ あたらしい死者のあなたと南北をわけあいたくて割る冬の瓜 (村上きわみ)

風景にうまく追いつくことができなかったんですが、とても気になった一首です。作者さんが南北と冬瓜にこめた死者との儀式に、いますこし触手を伸ばし続けてみようとおもいます。ありがとう。