鑑賞「026:コンビニ」

今日ふたつめの鑑賞です、お題「コンビニ」の1〜235首からステキ短歌を。コンビニ、私めったに行かないんですけど、みなさんの歌を詠んでるとこう、アンテナの感度を保つためにも用事がなくても行かなくちゃ、みたいな気分になりました。迷惑でしょうけどね、店は(笑)。それだけ、歌になる場所だなぁって。


■ コンビニのおにぎりたちがにぎられたこともないまま食べられるかまえ
   (木村比呂)
「お握り」という呼び名がもう、形骸化してますもんね。あたまに「お」まで付けてもらっているのに。小説の登場人物に「おむすびがどうしておいしいのだか知ってますか。あれはね、人間の指で握りしめて作るからですよ」って言わせたのは太宰でした。「かまえ」っていうのが印象的です、品定めされることを享受しているさま。なにかそのまま、店先にしゃがみこむおんなのこたちとイメージがダブります。にぎられたことのない、いつくしまれない存在の、寄る瀬なさ。


■ 欲しいものなんてなかったコンビニで「ありがとう」だけもらって帰る
   (暮夜 宴)
シンプルだけど、つよい。コンビニは、欲しいものは手に入らないという現実を確認するためにある誘蛾灯だ、とおもったりします。背中の耳で聞く「ありがとう」は、恋によく似た痛みだね。ほら、孤独な青みで。灯っているだろう。


■ コンビニどこですかわたし喪服から真っ赤な鳩がこぼれそうです
   (ひぐらしひなつ)
ぶっちぎりの一等賞です! 喪服から!真っ赤な!鳩!こぼれそう! これ読めて嬉しいっていう以上に、詠めたときの心境を作者のひぐらしさんに是非うかがってみたい。私ならぜったいガッツポーズしてる、それくらいの配列だとおもう。真っ赤な鳩に気をとられがちだけど、コンビニに飛び込む喪服のコントラストもかなり異質な日常感だ。やー、素敵すぎて鼓動が速くなってしまう。くそぉーなんで私の言葉じゃないんだ。


■ コンビニの張さん今日は機嫌よしスプーンくれるし釣りも投げない
   (O.F.)
コンビニという舞台の無機質さを、けど支えているのは確かな生身の人間だということ。ほんの小指の先ほどの人との関わりに、ほんのすこしだけ、救われるような。そんな一瞬が切りとられた歌。張さんも、そんな張さんに気づいた話者も、ささやかにあたたかでありますように。