短歌鑑賞・「002:一日」

「002:一日」のステキ短歌です。1〜237首目まで。


■ しない日は食べない、だっけ、二人して無花果一つ食べた一日
  (木村比呂)
「しない日」というフレーズが印象的。ひとつの果実を指で裂き、二人で分け合う姿が浮かびます。イチジクの断面は細胞のよう。上質、静謐なエロチシズム。


■ あと少し好きになるまで待っていて半日以上一日未満
  (ほたる)
「待っていて」、という性急。この猶予は自身が覚悟を決めるほんの一瞬のためにあり、話者の心はもう充分に好きで満ちていることが解ります。恋に落ちるという抗えない心の速度に満ちた一首です。


■ きっとそこにあるはずだった伝言を挟んだドアの向こうの一日
  (若月香子)
焦がれてか、不在へのかなしみか、「そこ」への強い想いを感じます。圧倒的に見えない・うかがい知れない他者との交わり、けれど隔てられているからこそ、私たちは言葉や行為に託して想いを飛ばし、触手を伸ばすのかもしれません。


■ 夏野菜ばかりを食べた一日が呪いのように僕を眠らす
  (日高裕生)
「夏野菜」「呪い」というフレーズのバランスが素敵。強い孤独を感じました。連鎖から外れ、原始からとおく離れた場所で息をする、という罪を生まれながらにして背負うヒトという私たち、その個々。そして、だからこそ人はどうしようもなく惹かれ合うのだとも。とても好きな一首です。