鑑賞「028:陰」

TB1〜151のなかからのピックアップです。陰、陽と対になる漢字として一見ネガティブなイメージを持つ単語なんですけど、歌の風景はぜんぜんそんなことがなくてむしろ深く豊かで鮮やかなのが読んでて嬉し楽しかったです。


■ をとめごの紺のプリーツスカートの陰翳ふかくけふ新学期
   (鮎美)
プリーツスカートの闇。「陰翳」と旧漢字なのもいいですね。開けっぴろげだった子どもから秘密を抱く少女への変革期、井坂洋子の詩「制服」に出てくる少女たちを思いだしました。「からだがほぐれていくのをきつく/眼尻でこらえながら登校する/休み時間/級友に指摘されるまで/スカートの箱襞の裏に/一筋こびりついた精液も/知覚できない」。制服という健全と抑圧の裏面からほのかに香るエロチシズムが魅力的な一首。


■ 新緑が陰と日向をはっきりとわける あなたと生きていきたい
   (こゆり)
つよい。あなたと生きていきたい、という意思は“ほかを選ばない”という残酷さと表裏だ。それが偏った有限の愛であることを「陰と日向をはっきりとわける」のフレーズでそれこそはっきりと、宣言し、だからこそ「あなた」への意思がまっすぐ伝わってきます。鮮やかな稜線。いいですね。


ほかには、

■ 山陰の宍道湖訪いし夏の日に原子炉のごとき夕焼けに会う (はこべ)
■ 前髪にちいさな陰をぶらさげて少女は風の隙間に立てり (ふみまろ)
■ 眠ってるあなたに日陰をつくりつつ静かに生理を待っていた夏 (藤野唯)
が印象深かったです。はこべさん、あかあかと、有り様だけでなく自然と人工を重ね合わせたところにも。ふみまろさん、陰をぶらさげ!風の隙間! すてき。見えるものと見えないものへの観察力。藤野さん、あああぁぁ。好きだなこれ。鮎美さんの歌の少女と位置的にとても近い。回想という形が取られてますがあえて現在形でこのやわらかなゆらめきを歌ってみるのもなお素敵だとおもいます。と我がままリクエスト。