鑑賞「023:シャツ」

1〜237首からのピックアップです。シャツという機能、またそのイメージ(個人的には男性のシャツは女性のブラジャーと性的に同意だとおもってます)も手伝ってか脱いだり脱がせたりするものが多かったです。それらを避けて選んだわけでは全然ないんですが、いいなぁーとおもった二首はそれらとは違うおもむきを持ってる歌でした。


■ シャツ以上ネクタイ未満の日々 ぼくの親は両方結婚してます
   (柚木 良)
なんという上の句! シャツ以上ネクタイ未満て! どんな尺度なんだろう、想像を駆立てられます。下の句、そりゃそうだよ、と思いかけてハッとしました、そうじゃないことだってあるんですよね。もしくは今はそれぞれ別の人と結婚してるなんてことも。捉えられることを拒むような前後の乖離、けどどうにも気になる魅力的な一首です。


■ 父親のワイシャツを夜に切り刻む母親の話を放課後に聞く
   (桑原憂太郎)
言葉運びが良く、するりと情景を描くことができます。友だちの親の話であることで狂気までの距離にクッションがあり、どこか津々でいられるというか。いやでも実際、自分の親の狂気を目の当たりにするのってホラーの比じゃないですよ。。例えばこれが恋がらみで、母親の妄想じゃないとしたら、父ちゃん何やってんだ! 人は狂気とともに在る生き物だ。どうしようもなく落ちてしまう恋もまた狂気の一種だから、そこが罪なんじゃない。決してバレないようにするという大人の最低限のマナー、思いやりの欠落が罪なんだ。



えーとこの先はイシハタの過激な(笑)表現を含めるので、歌に迷惑かかっちゃうといけないので分けて書きますね。
つまり婚姻関係の有無にかかわらず、バレるってことはころされて止むなしって書面に自ら判を押すようなものだとおもうのですよ。もちろん言うまでもなく、執行は相手もそれこそ死ぬ気で抑えるべきなんだけど。そのギリギリの理性が母親に人間ではなくシャツを切らせている。そんな大人たちを、子どもの眼はどんなふうに映しているんだろう。狂気と罪についてものすごく考えさせられます。