鑑賞「021:くちばし」

1〜248首からのステキ短歌です。くちばし、わりと難しいお題でしたね、ひととおり読んでみて思いました。イメージが固定されてしまうからかしら、嘴にしろ口走るにしろ、なんとなくみなさん似たトーンの歌が多かったです。そんななか、同じアイテムでも見せかたが面白い、すてき! とキュンとした四首をピックアップしますね。


■ くちばしがばれないやうなマスクして二輌目辺りに座つてゐます
   (秋月あまね)
かわいい。ちょこん、って音が鳴るみたいに座ってるんだろうな。文字だけを追うとジブリ映画のようなプリミティヴな日常感、詩情を追うと多面性を持つ魅力的なおんなのこの一コマという感じ。二輌目辺りっていう語感もいいですね。見つけて見つけて、ってガツガツしてない、けどちょっとあれっ、って思われたくもありそうな、かわいらしさ。


■ あの人の無害にみえるくちばしはフリーズドライ雨でもどるの
   (O.F.)
カサカサ苺が、口のなかでゆっくり果実に戻っていくみたいに。無害、「にみえる」ってのがいいですね、ほんとだ、フリーズドライって無害そう。水ではなく「雨」ってところにドラマ性を感じます。


■ とぶものはくわえられるかくちばしに水平環のひえたなないろ
   (ワンコ山田)
歩く者である私たちもまた、掴むことはもちろん、その根にすらたどり着けないのだけど。鳥は鳥の領域で生き、虹は虹の領域で立ち現れる、その、届かないけれど存在を知らしめ合う、それぞれの、それぞれへの憧憬と尊厳で満ちる私たちの世界を想います。


■ あなたならだいじょうぶだと思いますチップスターのくちばしが言う
   (末松さくや)
あーー素敵です、これ大好き。何気ないんですけど見せかたがすごく巧いですよね。会話の種類、敬語からうかがえるふたりの関係性、「チップスターのくちばしが言」っているようなカメラアングル、とぼけた励ましかたから、話している本人が割とシリアスな状態であることがうかがえる、つまり聞いている側のほっこりする気遣い……そういったものを、たった31文字でぶあぁっと読み手に予感させ描かせる。そしてこれがきっと一番難しいって思うのが、それらを、《平坦な言葉で編む》こと。大事なことなのでカッコ付けました(笑)。いいなーすごいなぁ、こういうポップな歌を私も詠みたいです。