鑑賞「017:解」
1〜249首からのピックアップです。今回は好きな歌が多くて嬉しい! いつものようにピピッときたままに感想を記しますね、みなさま多謝&感謝です。
■ なめくぢの這ひたるあとの光りをり友と和解し夜道をゆけば
(梅田啓子)
暗闇のなかに濡れている、ひとすじ。わずかな光だけど、話者の夜のなかで静かな存在感を示しています。上質な心象風景。
■ 三月に冷たい四肢を見せてくれる それは変わりつづける解答
(木村比呂)
昨日の答えと今日の答えは、違っていて。自分の行動、自分のこころ、相手となにが合致してなにが相容れなかったのか、いつだってその本当はわからないけれど。私たちはそれぞれが自分でいるしかないし、ひとときのイコール、交わりを大事に想う。木村さんの短歌はいつも静かで、けれどなにより熱い青い炎みたい、祈りだっておもう。好きです。
■ 暗号のようなメールの謎解けず返事は今日も天気から書く
(チッピッピ)
嗚呼、嗚呼。言葉にできることはほんのわずかだ。直球を投げられない、けど話しかけずにいられない、気づいて欲しい、そんなことあるよね。受けとる側の反応もわかるなぁ。わかんないことだらけ。だけど、繋がってる、繋がろうっておもう。
■ 譲れないものがはっきり解ったら何も言わずに暮らしていける
(流水)
下の句の強さ。真夏の稜線みたい、内側が揺るぎないってのはこういうことなんだって、知らしめてくれる美しさ。譲れないからこそ何かを言ってしまうことのほうが多い私にとって、まぶしい強さです。
■ 暴動を夢みて必死にこらへてゐるマグロ解體ショーの人々
(酒井景二朗)
このスケール! 解体ショーのあの空間って、捌く側にも見てる側にも妙な高揚感があって、単なるわくわくとも違うんですよね。なにしろあのデカさ、モノの上等さ、そしてその後の、購入という名の部位の奪い合い。それを「暴動」という言葉で見事に描かれてます。
■ あのバンドが解散しても悲しまない人と結婚しててごめんね
(宮田ふゆこ)
ぐあーーこれは。自分に回帰するんじゃなく、ベクトルは当時の恋人に向かってる。夢中になってる/なってた音楽をふりかえるとき、同時にそこにあるだろう存在。おおきいよね、こういうのって。
■ 彼はまた三平方の定理にてこの問題を解こうとしてる
(鴨居)
手持ちの得意アイテムは万能じゃないんだぜ、って、何かが上手くいってないとき、どこかからおもわれてるんだろうな。それでも手持ちの何かで頑張ってみることしかできないんだよなぁー。
■ モノクロの解剖学図にんげんの中身に全部名前をつける
(千坂麻緒)
人間って、名づけたがりですよね。物だったり現象だったり、何らかの形で目にできる大抵のものには総て名前がついている。その上で、けれど作者の千坂さんの視線は、それでもなお言葉の及ばない部分に向けられているような気がして、この歌はとても印象に残りました。私が今年初めに詠んだ歌を返歌に代えて、ここに置かせてくださいね。
解剖しても誰にも見つからない場所で君よ、一緒に暮らして、ください、 (石畑由紀子)