鑑賞「016:Uターン」

1〜254首からのピックアップ。戻ること、あるいは戻れない/戻らないこと、どちらの状況をどんな熱度で詠まれているのかが興味深かったです。いじりかた・使いかたが限定される単語だけに似た感じの歌が多かったなか、私イシハタがピピッと感じた歌を四首ピックアップしてみました。


■ たはむれにショッピングカート弄ふ子のげになめらかにUターンせり
   (磯野カヅオ)
たわむれに、なめらかに。子どもの、ためらいのない動きがやわらかな単語とともに描かれています。欲望に忠実な、残酷さでもあって。「弄ふ」が特にいいですね、鮮やかなターンの情景描写のなかには、大人となった話者の現在……想いのままに戻れなかったり、ブレーキをかけるしかなかったり……というこころの交通事情がふと、顔をのぞかせているようでもあります。


■ Uターンして走ってく 半ドアのきみのところに指を挟みに
   (藤野唯)
これむちゃくちゃ好きです! 全開じゃなくて半ドアなんだ、きっと「きみ」のためらいであり欲望でありサインなんだ、気づいてしまったらそれはもう、意を決して挟みにいっちゃうしかないよね。Uターン=後戻りするさまを詠んだものが多いなか、「ターンするという戻れない道」が見事に詠まれている歌。素敵だなぁー。


■ Uターンラッシュのニュース羨めば暮れゆく空に宵の明星
   (チッピッピ)
もうどのくらい、ゆっくり帰ってないのかな。明星は、明け方なによりも遅くまで見え、宵になによりも早く現れる。こころの、そんな存在なんだって。シンプルに、すとんとくる歌です。


■ Uターンできずに越えてきた夜が育ててくれた強さだと知る
   (みち。)
いつのまに。私たちは、ここまで歩いて来たんだろうね。夜のひとつひとつが、ふるえるほど愛しい。いいですね。