短歌鑑賞・「011:嫉妬」

昨日ひさびさに鑑賞を再開したところで、間髪入れず連日の更新です。衝動にのみ突き動かされ突進するこの性格をなんとかしたい(笑)。だって亥年なんだもの! と言い訳しつつ、今日も鑑賞ののろしをぽうっ、と上げるのでした。1〜221首目からのピックアップです。


■  必ずや探し出されて君といるタイガーバームに嫉妬している
   (水口涼子)
嗚呼、嗚呼。そんなふうに。私の隠れた場所も探して欲しいのに、っておもいながら、いつも隣でわらってる。気づいてよ。タイガーバームっていうのもいいですね、肌身離さずな感じが伝わってきます。


■ 水槽にゆびをつつつとしてあるく さかなは嫉妬深いひとがすき
   (緒川景子)
つつつ、の指につつつ、と付いてくる、さかな。指先にまでつまった感情を追うみたいに。すごいなぁ、巧いですね、「あるく」とあるので舞台は水族館かな。いま一緒にいるだろう相手の描写は一切ないままに、指の動きだけでその存在と様子を香りたたせています。


■ それぞれに嫉妬のあって六月のブーケは空をふっと横切る
   (音波)
おんなのこたちの、いろとりどりの感情がマーブルにからみ合う一瞬がポップに切りとられています。その高みを自由な放物線で越えてゆくブーケ、太陽の光線を音もなく切断する逆光のシルエットが見えるよう。きれいな歌だなぁー。


■ 「嫉妬ばかりしてる雲なの」つぶやいて雪がひそひそ堕落してゆく
   (ことり)
詩的な静けさ。「ひそひそ」が効いてますね、ほんとう、雪はつぶやきとともに舞い落ちてくるものだなぁ。そして雲の嫉妬の矢尻はどこだろう、やっぱり太陽なのかしら。


■  一心にパン生地を捏ねているうちに嫉妬している私が見えた
   (kei)
雑音の多い日々のなか、からっぽになってみないと会えない自分がいますね。無我の向こうにたどり着く手段はそれぞれに。話者はこのあとどんな味のパンを食べるんだろう、想像はイースト菌とともにふくらみます。ちなみに私の“一心”は、陶芸で土をこねてるとき。いいですよー土。形成され焼いて結晶化するという意味で、パンと陶芸は似てるかもしれないな。