短歌鑑賞・「010:街」

ややひさしぶりの鑑賞です。ちょっとバタバタとしておりました、自分の詠みも今月はかなりのんびりペース。というか、036のお題「意図」が難しくてねぇー(笑)。それでは「010:街」、1〜225首目からのピックアップです。


■ 東京湾の見える草原ここはまだ名を持たぬ土地D-0街区
   (井手蜂子)
喧騒とは無縁、おそらくは埋め立て地であるだろう土地の、期が熟すまでの静かな時間。いいですね。さらには「名を持たぬ」としながらも「D-0」という名称が与えられていることで、名前とはなにか、名づけるとはなにかという問いを喚起させてくれる奥行きの深さも好きです。


■ みぞれなど降りだしそうな問屋街スプーンフォーク静かに光る
   (夏実麦太朗)
○○街、というある特定の空間を詠った歌のなかでいちばん惹かれた一首です。外食にまつわる賑やかな空間へと旅立つ前のカラトリーの静けさが、その物体の無機質さ、さらには鈍色の空もようと相まってしんしんと響いてきます。問屋街っていうチョイス、素敵だなぁ。


■ あの街にまた道ができ ぼくたちの歩いたあとは薄れて微風
   (こすぎ)
これはもう、実感をもって共感しました。かつて住んでいた街の馴染みの場所を訪れてみたら、知らない道が走ってたりするんですよ。おもいでの商店や電話ボックスがなくなってたりしてね。。胸のなかまで区画整理されてくようで、時の流れを痛感するの。嗚呼、もうーきゅんきゅんです。


■ 私とは出会っていない人たちが点す街あかりだって明るい
   (宮田ふゆこ)
あったかい、あかりも「私」も。自分の外側にどれだけ想いをとばし、それを慈しむことができるか。豊かさって、きっとそういうことなんだとおもいます。