短歌鑑賞・「005:調」

1〜238首目からのピックアップです。
鑑賞も回を重ねていくと、好みというか、気になる詠い手さんがちらほらと。触手をのばしつつ、感じたままを記しているので、歌の真意からはなれているときもあるかもです、多謝。あーでも、詠みも読みも楽しい!


■ 調律も終わっていない星なのに八百億のなめらかな指
  (木村比呂)
ひとつひとつの言葉が、とてもきれいに響いてる。木村さんの歌は言葉のチョイスや配置がどれも素敵で、今回のも「調律」という熟語の効果がいいですね。空はつねに変化の途上、星座はすこしずつ形を変え、北極星もやがて中心から外れる、そのただなかの一瞬を私たちは見あげていて。あまたの人々があまたの星を指し示してきた、その遥かな時の流れが浮かびます。


■ パソコンが上気している 春に咲く花の名前を調べるうちに
  (ひぐらしひなつ)
なんの花かな、どんな花かな。開花って恋みたい。使い手の熱度がそのままパソコンの熱度となって。無機質なものに息吹をあたえる紡ぎかたが私はとても好きなのです、いいですねー。


■ 裏切りが許されている五月まで静かに増えていく調味料
  (日高裕生)
その時を待つ、内側が、日々の営みのなかにうごめいてる。歌いだしにドキッとします、許され許しているのは自分、その狂気。異変は晴天の霹靂にみえて、実際は人知れず「静かに増えて」いってるものなんだ。調味料という平和な団らんの一角を担うアイテムがチョイスされることで、狂いまでのカウントダウンにより凄みを感じます。


■ サザエさんのテーマソングを短調にうつして夕陽色のハモニカ
  (やすたけまり)
これはいい固有名詞だなー。休日と平日の境目はまさにサザエさんにありますよね、エンディングテーマを聴くと「ああ、休みは終わった……明日は仕事/学校だ……」みたいな気分になるのです。短調、夕陽、ハモニカ、どの言葉も歌のなかでキッチリと役割を果たしてます。


■ わたしより愛しいものがあるひとの鼓動の調べ おかえりなさい
  (田丸まひる
人が人と生きる、という、さみしさ。生きる、って、割り切れないものと心中しつづけることなのかもしれない。なんてことのないシンプルな言葉たちで、こんなにも話者のこころのを豊かに表現できるなんて。孤独な、やさしいおとなたちの歌です。