短歌鑑賞・「003:助」
さてさて、「助」のステキ短歌。1〜243首目からのチョイスです。
漢字一文字のお題の場合、どんなふうに組み入れて詠んでいるか興味がわきますねー。そのまま送り仮名をつけて「助ける」「助け」とするのか、「助手」「補助輪」などの熟語をつくるのか、などなど。なかには穂村弘の影響か「助けて」の連呼で詠んでるかたがわりといました。熟語のチョイスは特に腕の見せどころという感じがします。そんななかからグッときた六首を。
■ 助走だと思っているからだめなんだ突き抜けるほどのキスをしてやる
(月下燕)
ストレートで、強くて、ポップ。「してやる」なんて最高によいです、たぶんこの歌は惹かれるひと多いんじゃないかな。私はなぜかこれで棒高跳びが脳裏に浮かびました(なぜ・笑)。いきなり全速力で、棒をぎゅんぎゅんしならせてポイントへ突進するの。そして弓なり、ピーカンの青空に、キス。
■ ややあってはにかみながら私まだ独身ですと助産師が言う
(秋月あまね)
「助産師」が「はにかむ」という違和とその表しかたが素敵。助産師さんって、助産婦の名残りかすでにご自身が出産にまつわるさまざまな経験があるように感じる職業であるところを上手く詠んでらっしゃいます。「ややあって」なんて書き出しも、豊かでいいなぁ。
■ 溺れても助けを呼べぬ恋の咎ペディキュアなおす指が震える
(萩 はるか)
“助け”系のなかではこれが飛び抜けて秀逸でした。心境はもちろん、「ペディキュアなおす指」から時間帯や話者の姿勢までが鮮明に浮かんでくるところとか。こういう、青い炎みたいな静かな狂気を私も詠んでいたい。
■ 「助けて」が「ありがとう」より先に載る語学テキストのページざらつく
(沼尻つた子)
時事や社会情勢を詠むとき、チョイスする語句の影響でひどく角張った歌になりがちなんですが、この歌にはそういう硬さがなくて、けど危機感はきっちり詠まれていて。そのバランスが印象的でした。
■ わかる人だけにわかってほしい日は助詞のすべてを摘みとっておく
(こはく)
これいいですね。読み解くための助けを自ら摘んでアートとして成立する一方、ベクトルは届けたい先へと一直線にのびていく。表現行為とはパブリックなものでありながら、実のところはたった一人に向けられた、きわめてプライベートなメッセージであるということがギュッと詠まれています。
■ 困ってもいいよ冷たい助手席を汚してしまう塩からいみず
(田丸まひる)
言葉ではシートの物理的な汚損のみが書かれているけど。本当に困らせてる、ふたりが途方にくれているその主題は、言葉以外の場所で編まれてる。「塩からいみず」という表現も素敵。「助手席」で詠まれた歌が多いなか、その着眼点に既視感のない新鮮さを味わわせてくれた一首です。